道路交通法を変えたあの事件!

何かと気忙しい年の瀬は事故のニュースも多いのですが、今年は高齢者の免許返納が増えた事もあってか、若い世代の事故が多い気がしているアーチビです。

ひき逃げ事故も相変わらず報道されていて、忘年会シーズンでもあり、逃げる理由で最も多い「飲酒運転」が原因で逃げるのかもしれませんね。

先日、録画していた「法律を大きく変えた重大な事件!」というTV番組を見たのですが、飲酒事故に関する道路交通法を大きく変えた福岡の事故から13年も経つんですね。

当時も大きく報道されていて、「市の若い職員で救護をせず逃走」「事故後に水をガブ飲みして飲酒検知値を減らした」などは知っていたのですが、今だから明かされる事実もあり、今回はその事件を振り返ってみたいと思います。

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1、道路交通法を変えた福岡の飲酒事故

<報道記事>

2006年8月25日午後10時頃、福岡市「海の中道大橋」の中央付近で、同市会社員Aさん運転のRV(レジャー用多目的車)が乗用車に追突され、ガードレールを突き破り約15メートル下の博多湾に転落。
車に乗っていたAさんの長男(3歳)、次男(2歳)、長女(1歳)の3人が死亡、Aさんと妻Bさんが軽傷を負いました。Aさん家族は、カブトムシ捕りに行った帰りで、子供達は後席のチャイルドシートで眠っていました。

福岡東署は、追突した車を運転していた福岡市職員C容疑者(22歳)を業務上過失致死傷道交法違反の疑いで緊急逮捕。C容疑者は酒を飲んでおり事故当時は酒気帯び状態でした。

C容疑者は酒を飲んだ後乗用車を運転し、Aさん運転のRVに追突後逃走した疑い。
現場は制限速度50キロ。容疑者は「80キロぐらい出していた」と供述していました。

<事故直後の被害者の行動>

博多湾へ転落したAさん家族のRV車はみるみる沈んで行きます。
母Bさんは、何度も海に潜りなんとか次男と長女を救出しました。
父Aさんは、偶然現場に出くわした漁船に子供を引き上げてもらい、次男と長女は救急搬送されましたが病院で死亡が確認されました。長男は沈む車の中で救出できず、数時間後にレスキュー隊によって引き上げられた車の中から遺体が発見されました。

<事故直後の容疑者の行動>

事故発生から5分後、事故現場から300m進んだ場所でハザードランプを点け停止。
逃走を図ろうとしたが追突のダメージで車が動かなくなっていました。

助手席に乗っていた友人には逃げるように指示し、別の友人に電話し飲酒運転で事故を起こした事を打ち明け「お前、替わってくれん?」と飲酒運転の身代わりを頼むが断られ、「じゃあ水を持って来てくれ」と頼み、酔いを醒ますために友人が持ってきた水を勢いよく喉に流し込みました。

<容疑者の出頭>

C容疑者が友人に促されて出頭したのは、事故発生から40分後でした。

現場にいた警察官に「俺が運転手です」と告げ、警察官に酒の匂いを問われると「はい、飲酒運転です」と答えました。
「どういう状況でぶつかったか?」との問いかけには「分からん。なんも覚えとらん」と答えましたが、この時、現場に居合わせた通行人は「むちゃくちゃ飲んでる泥酔状態。何を喋っているか分からない状態。」と証言しています。

<飲酒検査>

この時のC容疑者の飲酒検査による呼気アルコール濃度は「1リットル中0.25mg」。
当時の酒気帯び運転に該当する数値で「ほろ酔い」のレベルでした。出頭までの40分と水のガブ飲みにより数値が低く表示されたと推測されます。

状態 呼気アルコール濃度 症状
ほろ酔い 0.1~0.5mg/ℓ 気分が高揚し 気が大きくなる
酩酊 0.5~1.0mg/ℓ 感情の起伏が激しくなる 千鳥足になる
泥酔 1.0~1.5mg/ℓ 言語がめちゃくちゃになる まともに立てなくなる
昏睡 1.5~2.0mg/ℓ 体をつねっても ゆすっても反応しない状態

この結果が事件の行方を大きく分けることになります。

2、裁判の争点

検察は厳罰化を求め、罪名を業務上過失致死傷から危険運転致死傷へ切り替え、懲役25年を求刑しました。
危険運転致死傷罪(最高刑20年)+ひき逃げ(最高刑5年)

ポイントは「過失か?故意か?」で、検察の求刑25年というのは『考えうる最も重い刑』となります。

【業務上過失致死傷罪の場合】
運転手が過失で事故を起こした場合に適用され、最高で懲役5年。

【危険運転致死傷罪の場合】
運転手に故意があった場合に適用され、最高で懲役20年。

<検察側の裁判資料>

危険運転致死傷罪が適用されるには条件が必要です。

【危険運転致死傷罪適用条件】
◦アルコール・薬物の使用
◦危険な高速度
◦運転技能不足
◦危険な割り込み
◦赤信号のことさら(故意)な無視
◦一方通行逆走など
上記によって正常な運転が困難な状態の時

検察は、事故当日のC被告のアルコール摂取状況を明らかにしました。

事故当日の午後7時前(事故の3時間以上前)、C被告は父親と自宅で酒を飲んでいました。350mlの缶ビール1本と焼酎をロックで3杯(約180ml)です。

その後、友人らと焼鳥店へ行き、焼酎をロックで5~6杯飲んだ後、車を運転してスナックへ行きブランデーなどを飲酒。この日、友人らと4時間にわたって飲み続け、焼酎を五合瓶で2本、更にブランデーとビールを飲み続けたという事です。

スナック従業員の証言によると「今日は酔っぱらっとるけん」と言い、ろれつが回らず大きくバランスを崩していたとの事。

そして、C被告はナンパをするために車で繁華街へ向かい、その途中で事故が起きました。

<弁護側の主張>

この事故の原因は被告人の飲酒による危険運転ではない。
被害者の車が突然急ブレーキをかけ減速したための事故であり、責任は被害者であるAさんにあると主張しました。C被告の車前部が、A被害者の車後部の下側へ潜り込むように衝突していたため、被害者の急ブレーキで車が前のめりになり後部が浮いた状態に衝突したという主張です。

Aさんの車は「ランドクルーザー プラド 70系」です。

C被告の車は「クラウンマジェスタ系」です。

証拠として、C被告の車の故障診断装置データを提出しました。データには「事故発生時の速度は時速約60kmでブレーキは踏んでいないこと」が示されていました。

そして、前方の車の急ブレーキに気付くのが遅れた被告の「よそ見が原因で起きた事故」であり「飲酒は原因ではない」と主張し、社会的制裁はすでに受けているので、業務上過失致死傷罪を適用し、刑務所へ服役しない執行猶予付きの減刑を求めました。

3、交通事故解析スペシャリストの解析

検察は300枚以上の現場写真を持ち込み交通事故解析の専門家へ依頼したところ、「被告がブレーキを踏んでいないと言う主張は疑わしい」と、被告の嘘が見破られました。

現場写真には2つのブレーキ痕が写っていて、専門家が見ると、ABS(アンチロックブレーキシステム)のブレーキがかかったタイヤ痕や、タイヤがバーストした時のタイヤ痕が分かるのだそうです。

被告の車が急ブレーキをかけてABSが作動したタイヤ痕が最初にあり、続いて、左前輪がバーストしたタイヤ痕が残されている事から、「被告人が衝突の直前に急ブレーキをかけてから衝突しその後タイヤがバーストした」という事実が判明します。

そして、故障診断装置のデータについては「12、13年前の装置は壊れてから0.2秒後に記録するタイプである」と、衝突後にブレーキを離した記録であることが分かりました。

被告の車が被害者の車に潜り込んでいたのは、弁護側の主張と逆で、被告の急ブレーキによりノーズダイブで前のめりになったから潜り込んでしまった。という事、更に、被告の車のスピードは、ブレーキ痕の幅や長さと車体の破損状況から時速は約100.4kmで走行していた事実(急ブレーキをかけたので衝突時の時速は約97.6km)を割り出しました。

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4、一審判決

被告の嘘が見破られたにも関わらず、福岡地裁の判決は、懲役7年6か月の実刑判決を言い渡し危険運転致死傷罪は適用されませんでした。

なぜ危険運転は認められなかったのか?
酒を飲んでいても正常な運転が出来ないほど酔っていたと証明できなかったからで、「飲酒」ではなく「よそ見運転」による事故と認定されたからです。

つまり、酒を飲んで運転をした被告の責任で3人の子供達が亡くなったのに「危険運転致死傷罪」には当たらないということです。

納得できない両親は控訴します。

そして、被告側も「よそ見運転」による事故としては刑が重すぎるとして控訴します。

5、二審

検察側は、よそ見運転ではない事を証明する実験を行いました。

道路は水はけを良くするために両サイドがだんだん低くなる構造になっています。
被告がよそ見をしながら運転していたとすれば、ハンドルを何も操作しなかった場合、徐々に左に反れて行き縁石にぶつかるはずですが、縁石や車にはそんな痕跡は見当たらなかったということです。

<検察側の再現実験>

被告が被害者の車に気付くのは、およそ230m手前、時速100kmで走行していれば時間にして8秒前、警察はこの230mの距離をハンドル操作をしない状態で何度も車を走らせました。
実験結果は、23回中23回共縁石に激突したのだそうです。

<検察側の主張>

再現実験を踏まえて、前を見て運転していると無意識にハンドル調整をするので、縁石に当てていない被告は「よそ見」ではなく前方を見て運転していたことになり、前方にいた被害者の車に気付かなかった理由は、被告の状態が明らかに異常でありアルコールの影響があったからだと主張しました。

<弁護側の主張>

被告が事故を起こした後、車を停車させた時、さらなる事故を招かないようハザードをつけて車を止めていた事から、しっかりと状況を把握できる状態の被告は泥酔状態ではなかったと主張しました。

6、二審判決

福岡高裁は、「危険運転致死傷罪」などの罪で懲役20年の判決を言い渡しました。

7、法改正

この事故によって2007年6月より、道路交通法が改正されました。
それまでの道交法には、飲酒運転をした者の周辺者を直接罰する規定がありませんでしたが、改正後は「飲酒運転と分かって同乗した者、車で帰る客に酒を出した飲食店」も処罰されるようになりました。

この法改正後、飲酒による事故は減少しています。

7、まとめ

事故解析の専門家である山崎さん曰く「失われた命を考えると、それに相当する処罰がないといけない。」ということです。

被告の弁護側は被害者が悪いと主張する訳で、それが裁判というものなのでしょうが、被害者は、居眠りをしていたとか、急ブレーキを踏んだとか、酒酔い運転をしていた等の風評被害を受け、被害者でありながら世間に責められるようなことがありました。

被告は当時22歳と若く、更生の余地を考えると20年の刑は重いのかもしれません。でも、3人の小さな命を奪っておきながら反省の色が見られません。一審での7年6か月の判決を「長すぎる」と主張するところも自分の保身しか考えていないように見えます。そう考えると、妥当な判決と言えるのかもしれませんね。

ただね、実際に私が被害の当事者だったとしたら、最高の重罪を求めたいので、当事者の怒りや悲しみは推して知るべしだと思います。

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